古くて良いとはこういうことか。


 ────童心に返ろう。
 よく聞く言葉である。
 というか私は日々童心しか持っていないような気もする。成長なしです。この年にもなっていろいろ日常の普遍的社会生活がままなっておりません。
 ひきこもらないだけほめろ。
 まあそれはいいけどさ。それとこれとはまた話が違うますしね。
 さて。
 童心に返る、という単語は大概において、「子供のような気持ちで遊んでみる」とかそういう事柄について使われるものだと認識してます。
 老人が、童心に返り、竹馬に乗ってみる、とか。
 ────例文がなんか変だな。その老人、落ちて死ななければいいが。
 今の子供はどうか知らんが、昔懐かしい外での遊びっての、私だっていくつか知ってます。
 でも、昨今は子供だけでキャッチボールしてて誤ってどこかの子供にぶつけて死なせたら、親の監督不行き届きで賠償金払えと言われるような世の中になって外で遊ぶことも不可能になりそうな世情なので外での遊びについては触れません(ちょっと古い話ですが。別にあてた子は悪くないとか、賠償金支払命令が全面的に不当と言いたいわけではなくて、単なるキャッチボールしてた子供に対し「ボールがあたれば死ぬかもしれないと予見できた」というのを判断材料とする裁判所の姿勢が解せんというだけです。未必の故意があったってこと?そこまででもないか。とりあえず私は予見できませんけど。怪我までいっても死ぬとは普通思わないよ。砲丸投げしてたとかなら話は別だが。しかも現場にいなかった親に責任ありというのもまたなんかどうなのかと。子供に支払能力がないのだから致し方ないといえばそうかもしれんが、ちょっと不可解な判決要旨だ。被害者の人はお気の毒だと心から思うが、端で見てる私には納得いかなかった、という話)
 というか、インドアな私なので、アウトドアな話題は極力避けたいというものです。
 だからまあこの度は、昔の駄菓子屋で売ってたと思われるへんなカードについて。


 もう15年以上前のこと。
 近所のスーパーで「駄菓子祭り」みたいなイベントをやっていた。
 最近はそういう懐古的な専門店に行かなければあまりお目にかかれない、10円20円の駄菓子なんかを並べて売ってたわけですね。まあ、その頃は、駄菓子屋みたいなものはまだいくつか健在だったけど。数年したら消えてしまったしそういう過渡期の頃のことです。
 そこで、変なもの売ってた。
 基本的にはカード。お化けや妖怪のような絵がかいてあり、裏には妙な薬品を塗ったくってあってトレーシングペーパーのようなものがかぶせてある。
 そのちょっとべたべたする薬品(皮膚科の塗り薬のような)を指につける。つけた指先をつけたり放したりすると、白い煙が出るのだ。親指と人差し指あたりにつけ、狂ったようにぺたぺたやるとなんかいい感じに煙がたちのぼる。
 一回だけ買ってもらってやったんですよ。
 これ、やめらんなくなる。
 煙が!煙が出てる!光線の加減とかで見えにくくなるくらいか細いものでもあるにはあるが、なんかその「指から煙が出てる!」という事実がものすごい子供心を射ぬいたわけです。
 部屋で一人で指先をこすりあわせる子供。
 怖いね。
 まあでもそんなずーっとはまれるものでもないわけで、子供時代のいい思い出として記憶の彼方に埋もれていこうとしていたわけだ。
 そしたらあんた、またそのスーパーで駄菓子イベントやってました。つい最近。
 まあ今までだって何度かやってるわけだけど、今回は結構大々的でお菓子から上記のような遊び道具までいろいろ取り揃えられていて見応えがあったのです。
 何気なく見て回ってたら、
あったんですよ。
 ちょっと画像の取り込みがぐたぐだなのはお化けの呪いかもしれません。実物はもう少し鮮やかなんすけども。
 しかもこれより一回り小さいくらいのサイズですね。
裏面はこん感じ。
 昔のはもう少し大きくて、裏の薬品も全面に塗ってあったのに、今ではちょっと染みみたいになってるあの1cmくらいの幅にしか塗ってない。ケチくさいなあ。
 別に子供だったからカードが大きく感じたわけじゃないと思うんですよ。
 ほんと、もう少し大きくてしっかりした紙で、全面が薬品でもってかっこいいお化けや妖怪が描かれていたはずなのになー・・・・・・製造会社が違うのかなー。
 いやでもね、もう自力で買えるお年頃なので、1枚30円のこいつを購入したんですよ。
 ただその購入理由ってのもいくつかあった。確かに煙も出したい。出したいのだが────この絵、なんか、良くない?
 かっこ良くはない。認めよう。
 ただこのB級テイストの、昔懐かしい立風書房だのなんだので刊行されてたホラー漫画の表紙のような、なんとも味わい深い勢いがナイスでないですか。変に色っぽいし。誰だこれ描いたの。
 このカードってね、一種類じゃないですよ、絵が。
 50枚くらいで1つの冊子になってて、そこから一枚ずつ千切ってレジに持ってくの。
 だからだぶりもあるので正確にはわかんないけど、少なくとも2〜30枚は違う絵柄がある。
 欲しい。
 欲しくないっすか?私は欲しい。こんなに煙出したいとは思わんが、この絵を集めて持っておきたい。
 悩んだ末に、

買いましたよ。
 これはほんの一部です。
 ────ほんとに、誰が描いたのかなあこれ。
 素晴らしすぎてグウの音もでん。
 特に左から2番目のあからさまな妖怪然としたところがすごく可愛い。一番左のは河童だろうか。川赤子だろうか。お岩系の女の口から出てる歯が一本というのはどう解釈するべきか。そんな勢いと全てに印刷された「カードけむり」という言葉が素敵な不協和音を奏で怖さ不気味さより脱力感を誘う。
 素晴らしいぜカードけむり。
 あの偽怪獣カードってあるじゃん。ああいう匂いもするよね。
 こういうへたうまな絵は恐怖感をあおるのですよ。伊藤潤ニだっけ、あの人はやっぱその分ちょっと損をしてるよな。絵が上手い分、怖いより先に笑えるんだもんあの展開。
 まあ漫画家論議はいいのだけれど。
 カードの裏面には老婆の絵が中央にあり、遊び方が書いてある。
 「ゆびさきにくすりをぬって
 つけたりはなしたりすると
 ふしぎなけむりがでます」

 ・・・・・・表の絵とはうらはらに、なんか礼儀正しいです。
 この薬がなんなのか、成分はどうなのか私は知らん。
 でも、「不思議な煙」がでるのだから「不思議な薬品」でいいと思う。謎が解けちゃうと面白くないし、世の中には不思議なことがあるのだよ派の私としては、「うわーい不思議ー」と夢見がちに遊んでいたい心境なのです。
 ああでも。
 不思議な薬品を指につけ煙を出して悦にいるいい大人────不気味ですね。ごめん。
 楽しいんだけどなあ。
 こんなカードを街中で見かけたらやって見てくださいよ。いい大人がこんなものって思われるかもしれませんが、やってみるとこれがけっこう本気で不思議で楽しいから。延々やりたくなってくる。
 子供ってこういうので満足するんですよ。
 童心に返ったつもりで是非。
 そして表面のおしゃれな妖怪画も堪能すれば言うことなしだ。
 こういうのが好きです、私は。


 ────でも、昔のは本当にもう少し、こ洒落た筆使いでかっこよかったんだけどなー。
 ここまでB級じゃなかったはずなんだが。
 まあいいか。
 これはこれで舞い上がるほどに満足。
 にしても、急に冊子ごと持ってきて、「このまま買ったら表紙もくれますか」という客って滅多にいないんだろうな。気持ち悪い客だっただろうなー。
 こういうのも大人買いって言うんでしょうかね。
 大人だからこそできるバブリーな金の使い方。
 つっても2000円しなかったけども。

おわり

2005年2月27日
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