「きゃあ」について

 最近ふと思ったのでずらずら書いてみようと思った。
 あのさ、「きゃあ」って叫んだことある?
 男性では少ないだろうが女性だったら結構多いと思うんだけど、叫び声を表現するときはやっぱ「きゃああああ」じゃない?ホラーでもパニックでもなんでもよろしいが、映画にしてもゲームにしてもやっぱ女性の叫び声として「きゃあああ」をよく耳にすると思うのよ。
 文学的表現をするなら「絹を切り裂いたような悲鳴」とかになるんでしょうかね。あのなんだか超音波じみた声が布をも切り裂くという意味だと解釈しているのだが。嘘だけど。
 ちなみに私はそんな叫びをしたことはありません。
 別に驚いたことがないとか恐怖したことがないとかそういうことではない。むしろ毎日が恐怖と驚きの連続だ。特に虫関係に関して。
 なんつーか私自身は驚いた場合声が出ないタイプなんだよ。息を飲んでそのままの人というか、例えば目の前にえらく足の長い体長6センチくらいの蜘蛛がつ────っとおりてきたとしても驚いて目を丸くしたあと無言でそいつを眺めるみたいな感じです。いやこれは例というより実話なんだがね。
 他にも机を虫がはっていたとしても、びくうっとなるかそうなったあと落ち着いてから「びっくりした」とひとりごちる程度。
 危険が迫った場合は「うわあ」であり「うおう」であり「ひいい」である。いや「ひいい」はないか。
 どちらにしろ「きゃあ」に近いボキャブラリーがとんとないのだ。むしろ一度でいいから「きゃあ」と言わせてみろと思うがそうなった場合もおそらく「うわっ」が限度だろうから多分一生無理な話なんだと思う。
 で、こんな私の家族はやはり「きゃあ」とは叫ばない。
 いやほんま、やっぱ「うわっ」とかなんだよ。「いやあ」もアリかな・・・いや咄嗟の叫びで「いやあ」はないか。どっちにしろ「きゃあ」はない。
 「きゃあ」という発音を聞くことが滅多にないのでそういうのを聞くとかなり新鮮な気分になる。
 そんなことはないだろうって?
 もしかして、家族ではいないが知人になら叫ぶ奴いるだろうと思う人もいるかもしんないけどさ────ちょっと違うのだな。
 私は正統的悲鳴「きゃあ」の定義は、やはり一度聞いて「きゃあ」と聞こえるものにしたいのだよ。
 類似した叫びはたくさんあるが、漫画等で見られる描き文字ぐらい鮮やかとは言わんまでも聞いた全員が「うむ、今のは間違いなくきゃあだ」と認めるものでないと認めたくない。
 知人の1人が叫ぶこともあるのだが、それは「きゃあ」というより「   ぁ」なのだ。端的に言えば表現できない超音波領域で叫んでいやがるので、私にとっては不快感しか残らない。むしろ彼女としては驚いたりしたんだから事情を聞いたり慰めたりしてもらいたいだろうところを「うっさいんじゃいてめえは、死ねっ!!」と言いたくなるのでそういうのは駄目。
 他の人としても「ひゃあ」というのがあるがこれもなんか違うだろう。
 ある知人に到っては一度「アウチッ!」って言いやがったですからな。
 ったくてめえは何人なんだよと聞いたものだが────まあ、そりゃ正統的悲鳴とは関係ない種類の話だろうけどね、衝撃的な言葉だったことは確かなので。どのくらいかって、宮島の弥山に登るのにロープウェーに乗ったとき、後から乗ってきたフランス人がドアにぶつかり「アウチ!」と叫んだことがめちゃめちゃ笑えたぐらい衝撃だったよ。いやあアウチは外国人に限るね。日本人のアウチは駄目だ、発音が。
 でだ。
 こうして考えれば私の周りに「きゃあ」と叫ぶ人はいない。
 そういう状況に陥ることがないのかもしれないが、とにかくも私自身が驚いた場合逆に口篭もるという性質ということでどんな人が正統的「きゃあ」を使うのかがすごく疑問だったのだ。
 だってさ、映画でもドラマでも小説でも漫画でもゲームでも女の子の絶叫と言えば「きゃあ」だろう。
 SFCのゲーム「弟切草」で扉の揺れる音を叫び声と間違ったっていう話にしてもやはりアレは「きゃああああ」という声に聞こえたってことだろう?
 何故にそんな普遍的な叫び声を私の周りでは全く耳にすることが出来ないのか。
 結局冒頭のとおり、叫んだことあるかないか、若しくは身近で聞いたことがあるかないかっていうことをね、考えて欲しかったのですよ。
 別に聞きたいとは思わないが聞けないことに気付くとなんだか気になってこないか?
 どんな性質の人間がいついかなるときにこの正統派絶叫を行うのか?
 すくなくとも本当に私が虫を発見し、そいつが襲いかかってきたとしても私は「うわあ」と叫ぶから。もしくは「うひゃあ」。
 それがね────見ちゃったんですよ。
 いやほんと。見たというか聞いたんですが。
 正統派「きゃあ」を。意外と身近に存在したよ、そいつ。
 会社の女の人でした。
 えーっとね、うちの会社、私いれて事務の女が2人いるんですがね、もう1人の人、私とは正反対(とまではいかんけど。ま、120度くらいとでもしようか)に違う属性の人なんですよ。ええ。
 というか、私が女として何かを忘れてきているみたいなので、どっちかっつーと私が正反対にねじくれているわけなんだが、まあそういうことは気にしない方がいい。
 そのKさんは、35歳くらいでまあ普通の女の人です。
 中学生の息子がいて、別に不細工というわけではなく(むしろ若い頃は美人だったのではないかと推測するが。いや、今も美人かと言えばそうかもしれんが)、適当に普通に化粧して車乗って通勤して仕事こなして定時に帰っていって半ば我関せず的なとこもあるが一般よりズレたとこもないだろうという人。
 ところで。
 私は虫が嫌いだと何度か言ったと思う。
 その人も根本的には嫌いだろうが、私ほどではないらしい。
 私はカメ虫を始めとして「どんな虫も触れない」というのに近い属性だからね。そいつを掴んで逃がすという行動を起こすくらいなら、一緒の部屋にいてにらみあっていた方がマシだと思う。特に会社では。でかいカメ虫をどうしても逃がさなければならない状況だったときも、あまりにも私が逡巡しているのでその女の人がなんとかしてくれた、という経緯もある。
 ね、その人「逃がす」とかいうことに関してはできるだろ?
 しかし人間誰でも弱点があるように、その人も絶対無理というものが存在する。
 ありきたりなとこゴキブリなわけだが。
 うちの会社は田舎にある。
 田舎といっても別に田畑広がる何もない場所というわけではないが、都会の人から見れば田舎にみえるだろう場所にある。会社の裏には林みたいな山があるし、電車は通勤時以外は2両で運行する。
 虫が出るんですよ。
 ゴキブリがでない方がおかしいでしょ?
 先日、出たんですよね。なんというか予想だにしなかったところに。
 こーいう輩はやはり水場にでると思うじゃん。それとかまあ物置?わかんないけど。なのにその立派なゴキブリ様は、事務所の小さな金庫の上にいました。普通に。
 「きゃあああっ」
という声がしました。
 私はその時、何が起こったのか、うわゴキブリがいる、ということより何よりも
 「今のきゃあああでございますよ?お聞きになった?きゃあですってみなさん。感動しましたわ私!初めてこんなに完璧なる叫び声を聞きましたわ!」
と思ってました。
 やはり私がズレているようです。
 結局そのゴキ野郎は何故か瀕死状態だったので(ここで何故瀕死のビキブリがわざわざ金庫の上でのびていなけれぱならないのか、という謎がでてくるよね)、ちりとりにいれられて外へ運ばれて行きました。
 とりあえず私が発見しなくてよかったと思いました。


 ということで、思ったです。
 「きゃあああ」は私とは全く違う中身の人間がするものなのではないかと。
 類は友を呼ぶということわざが普遍なものなら、私の近くにそういう人がいないのは道理。「私は叫ばないのだから、周りの人がそんな叫びを行使しない」ということに決着はつく。
 そして。
 「私は完璧な絶叫をやってのける」もしくは「知り合いにそういう人がいる」というみなさん。
 多分その人は普通の女の人だと思われるので大事にしてあげてください。
 私はもういいですから。
 ────────とかそんな極端な話があるものか!!
 しかしやはりどうしても、「完璧な叫び」は現代の一般的と思われる人間がやるもんじゃねーかなーと思った次第です。
 統計学上、対象がたった一人というところがもう駄目駄目だな。

2002年9月8日  おわり

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