横溝正史の
「三首塔」に関する記憶


 (うろ覚えの記憶をもとにするイメージのみの話なことを了承ください)

 小学生の頃、金田一耕介シリーズを半分くらい読んだ。
 勿論横溝正史でカドカワ文庫で背表紙が黒で緑の文字でタイトルが書いてあって、豊川悦史が演るとき作った新判ではない大昔のやたらエロチシズムに溢れてそうな絵柄の表紙を持つシリーズのことだ。
 公民館の図書館に文庫が何冊かあったからで、今考えると恐ろしい話だなと思わないでもない。
 だって小学生があんな本読み狂うんですよ。半分意味わかってないのに。怖くないか?
 ────といってもまあ、きっと大方の人って映画・ドラマの「金田一」しか知らなかったりするのかね?
 それならまあ不思議がられてもおかしかないが、もしかして原作を読んだ人も「なんで?」って思ってたりしてたらそれは嫌だなあ。うん。
 あ?何故かって?
 なんとゆーか・・・・・・私の「小説版・金田一耕介シリーズ」に関する認識ってどっちかっつーと「ソフトポルノ」なんだもん。「ポルノ」という用語の正しい使い方を知らんから表現として適切かどうかは知らんが、そうとしか思えないんだからそれで納得しといて。
 で、じゃあなんで小学生が金田一を読むに至ったかというと、そりゃ金田一耕介がすごく好きだったからだ。身も蓋も無いが。本好きの少年少女が、子供が騙った偽妖精を見抜けなかったコナン・ドイルのシャーロックホームズに一度ははまるのと同じじゃないか?違うか?まあそりゃどうでもええわ。
 じゃあなんで好きだったかって、市川昆監督・石坂浩二主演のところの金田一に惚れたからだと思われる。
 この場合「石坂浩二」が重要。古谷一行の金田一なんか言語道断なんで、死んでしまえと思います。真剣に。
 よくある話だ。
 小さい頃、石坂浩二の金田一シリーズが何度も何度もテレビ放映され、もうそれ以外の金田一は私の中では偽者になってしまったんだね。石坂浩二以外は考えられない。どのくらい考えられないかって、石坂浩二でない金田一は絶対に見ない、というくらい。
 豊悦の金田一は外見はいいが喋りがちょっとなあ・・・と思うしね。
 あの人は喋らせたら駄目なんすよ。
 で。
 大きくなってしまった私は、昨今放映されない石坂浩二版金田一が見たくてたまらず、レンタルビデオで見つけた数本を借りて堪能したのさ。
 最初に借りたのが「病院坂の首くくりの家」というところで既に間違っている。
 あとは「悪魔の手毬歌」「獄門島」「女王蜂」「犬神家の一族」を見たんだっけ。少ないね。「悪魔が来たりて笛を吹く」と「八墓村」がないのが痛い。だってビデオ屋にないんだもんっ、ぶーっ。
 ということで改めて名探偵を見てみると、やっぱアレっすね。探偵って事後処理だけだね。防げないね。
 全員死んだ後に「この人が犯人です」と言って、その犯人も自殺して、どうすんのさ金田一(笑)。
 しかしそんな情けない探偵姿も含め、私は彼の全てがお気に入りさ。報酬はきちんと受け取って領収もらって封筒から出してきちんと数えて「はい、確かに」というところもね。見送りが嫌で誰かが来る前に列車に乗るところとかね。情報収集してくれる若い男女にメシ奢るときも「経費で落ちるから」と言うとこもね。フケは見るだけには面白いから許す。
 とにかくも市川昆の作った金田一はすごくいい。
 上の数行は石坂浩二を称えるものだが、彼の演技がよくても見せ方が駄目ならその映画は駄目になる。
 私はこの一連の金田一の見せ方はすごく好きだ。事件の概要というか関係のこんがらがり方がめんどくさくて理解不能になることもあるが(特に家系図)、画面的な話、カットのテンポとかアングルとかはいいね。斬新。これで斬新といっている私の脳みそは30年前くらいで止まってるのかもしれんが、そこはそれご愛嬌さ。
 テロップも好き。出演とかで

石      坂
浩二

みたいに表現するのがいい。すいません、一度パクりました。
 とにかくもやっぱすごいなあと思ったのですよ、今見ても。
 2時間休憩なしで食い入るように見ましたね。
 子供の私が何に感動したのかは知らんがこれほど惚れ込むくらいなのだ。
 だから原作を見つければ読みたくもなろうというもの。お、やっと本題に戻りましたよ。
 ま、そんな素敵すぎる市川金田一は、確かにエッチな描写はあるが、それがあからさまに前面に押し出されていることはない。金田一が活躍する映画としてあるんだからってのと、それこそが物語の根幹ということもあるわけで、エッチをいれないと始まらんということの間での折衷案だったのかね(犬神家は死んだ当主の過去がなんだかエッチだったし(行き倒れていたところを神主に救われてそいつといい仲になるが(ホモじゃん)、その後神主の奥さんといい仲になってしまってちちくりあってるところを神主が天窓からじっと見ている、みたいななんか書いてる私もよくわからん複雑な話なんだけどね。女王蜂も主役の女が何度も襲われることに事件が絡んでて、エッチなしでは語れない話にしか見えん)
 映画では描写はおさえてあったというか、多分テレビ放送できるくらいには許容範囲。
 おさえなかったらただのポルノになっちゃうしね。
 だから、私としても、そうしたノリで金田一耕介の小説を読もうと思ったわけですよ。本当のことを知らないのだからそれも仕方ない。私は小学校高学年になるかならんかの純真なお年頃でしたよ。まさにコナン・ドイルとか読み始めてましたよ。そんな子が横溝正史。まあいいけどね。
 そこで最初にショックだったのって、金田一が主役じゃない!!ということ。
 私も何かずれてるか?
 だってさ、映画では金田一を中心に大概世界が回ってるじゃん。主役だしそれが普通だ。
 実はそれは映画用にデフォルメされた視点からのもので、確かに金田一はそこにいるが、原作の中の大体の主役は事件に巻き込まれる中心人物の1人だった。
 確か「八つ墓村」は村を訪れることになってしまった青年の一人称じゃなかっただろうか。一人称でないとしてもそいつ中心だったと思う。それがショックだった。
 ホームズはホームズが主役であって、被害者が主役になることはない。
 それが当然と思うから、金田一シリーズの構成はとりあえず衝撃だった。
 しかも等々力警部が毎回出てこないってどういうこと?そりゃ警視庁の人間が岡山の殺人事件に首を突っ込むのもおかしいが、映画だとどこでもかしこでもあの人だったじゃん!!と勝手に私が思ってただけなんだけどさ。この等々力警部に触発されて、「怒々力」という日本語としてはどうか?という名前のキャラを作ったのはいい思い出だ。
 そしてここからが重要。
 ────子供心にあきれかえったのは、やたら出てくる人がエッチしたがりということだったのよ。
 うろ覚えとしてだけど、八つ墓村のラスト近くでは主役とどっかの女が洞窟の奥の方で抱き合ったでしょ。蜘蛛だか蛇だかがキーワードのぶんは、物語の始まりがいきなりラブホテルだ。チチに蜥蜴かなんかの刺青がしてあったらしいよ。なんかもう、みんなそんな感じ。
 大人対象の本だから、それが普通なのかもしれんがね。
 そう自分に言い聞かせてましたが、「そりゃないよ」と思うしかない話を発見しました。
 これこそ今回の主題「三つ首塔」ですよ。関係ないけど、私ずっとこれを「三つ首峠」だと思ってました。全然違うじゃん。
 これって映画になったことありますよね?見たと思うんだけど、全くもって内容を忘れてます。
 映画はおぼろげ、文庫もうろ覚え、それでも印象に残るのは、「ソフトポルノ!」なんだから程度もうかがいしれよう。・・・・・・いやまあ、考えてみれば、実際どうってことない中身だったのかもしれんが、私的には首をかしげるということで聞いてくれよ。
 とりあえず金田一は名ばかりですよこれ。マジで。
 話は三つ首塔が見つかって、喜びのあまりセックスした、という身も蓋も無いシーンから始まったと思う。なんだよそれは。で遡って、何故彼らがこんなにも塔を見つけたかったのか、という話になるんだけど。
 導入はある金持ちの令嬢のお見合いだか婚約会見だかの場から始まる。
 休憩しようと令嬢が部屋に戻ってくると、そこに見知らぬ男が立っていた。叫んで逃げようとしたが、逆に捕まって強姦される。最初から快調ですよ、横溝正史。
 それから途中までは覚えてない。っていうか、他のことのインパクトありすぎて覚えることができなかった。
 なんか財宝かなんかがあるんで三つ首塔を探す競争してて、その謎の鍵を令嬢が持ってるらしいとかじゃなかったっけ。でも本人はそんな自覚はないわけ。
 何故か自分を強姦した男にさらわれ、アパートの一室で軟禁状態にさせられるんだけど、そこには女の人が1人いて自分の世話をしてくれる。女の人は令嬢強姦男に心底惚れていて、令嬢はあんな最低男のどこがいいのかと聞くが、「優しいから」とか普通の返事で理解できない。まあ惚れてるもんは仕方ないわな。
 しかし、今回主役の令嬢にとってみれば、男は一週間に一度くらい気紛れにやってきては自分を強姦していく破廉恥強姦魔でしかない。・・・・・・そうでしかなかったにも拘わらず、だ!男を心底憎んでいたはずの令嬢、次第に気持ちの変化が現れてくる。
 なんか男は女を3人くらい囲ってて、謎の鍵を持っているから狙われまくっている(らしい)令嬢を、誰かに誘拐されないようにその3軒に転々と泊まり歩かせていた。勿論囲われている女たちは男にべた惚れ状態。こんなことでいいのか?この3人は。
 しかも令嬢も男のことが好きになりかけていて、いやいやそんなことじゃ駄目だ、と言い聞かせながら日々を送るが、ある日重大なことが判明する。
 実は、最初の日に自分を強姦したのは、男の双子の兄だったのだ。マジで。双子だから違う人物だとわからなかったようだ。
 双子の兄はどうしようもない悪党で、そいつも三つ首塔の財宝を狙っており、だから令嬢に目をつけて強姦したりさらおうとしたりしたらしい。彼女を救えなかった男は、兄に化けて魔の手から守っている────とこういうわけだ。私には理屈がよくわからんがそういうことだ。
 一方それを知って令嬢は感激する(何故?)。
 私が憎むべきは兄の方で、この人のことは大っぴらに愛してもいいのね!やった!────とかなんとか。 ・・・・・・なんか違う気もするがまあいいか。
 結局さあ、彼女がこの事実に気付くまでのセックスは合意の上ではなかったんでしょ?だったら強姦罪じゃん。おかしいよ。
 まあ本人は納得したけど。事後承諾か?
 この時を境に、彼女は男とのセックスに溺れていくわけだ。また、こいつのテクはすごいらしい(と令嬢は言ってた気がする。というか男にほれてる女たちが言ってたんだっけ?もういいけどさ)。いろんな意味で女たちを魅了する男。すごいね。
 2人はお互いの気持ちを確認し愛し合った。囲っている女達を一体どうする気なのか、そこんとこは考えちゃだめだ。・・・・・・そういや、囲われてる女達も兄にひどい仕打ちをうけた被害者とかそんな設定あったっけ。
 とりあえず些細なことは気にせずに2人は協力しあい、三つ首塔の手がかりを見つけ、そこに辿り着いた。
 そして冒頭の身も蓋も無いシーンになるのですよ。
 満足したあと、塔の探索に着手するわけだが、そこには思わぬ罠が待っていた。
 陰気な兄が罠をはっていたんですな。
 2人は涸れた古井戸に突き落とされてしまうのだ!
 勿論、他の人たちはまだ三つ首塔の謎には迫ってなくて、助けにくる可能性なんて無いに等しい。しかし男は絶望しなかった。
 弱っていく女に何故か持参していたおにぎりを無理矢理口移しで食わせたり、なんらかの方法で水を集めたりして命を繋いだ。古井戸の底でもなんかキスしたり恥ずかしげもなく語らったりしてた気もする。
 絶望の淵でどうにか踏みとどまった彼ら(というより男?)の努力は報われた。
 数日後、金田一耕介が謎を解いて塔を訪れ、彼らを救出したのだ!やった!名探偵のくせに謎解き遅いとはどういうことだよこの野郎とか言いっこなしだ!
 ────という、話。
 実はラストのオチも覚えていねえ。三つ首塔には結局何があったんだっけ?それもよくわからん。
 多分それくらい他のことが妙すぎて仕方なかったんだよ。妙だもん。私にはわかんないよ、ここに出てくる女たちの心の機微が。
 ねー、これソフトポルノととってもおかしくないような気がしませんか?私だけか?衝撃なのは。
 横溝正史はそれが売り、的な話を聞くのは何年もたってからなわけだが、映画が基本と捉えていた小学生は度肝を抜かれたということです。
 小学生が読んだら駄目だよね。
 まあ読んだものは仕方ないけど。
 とにかく囲われた3人の女の不可思議さと、ああもコロリと強姦魔に惚れ狂う女の心境が未だもって私にはわかりません。
 やはり、余程すごいテクだったんだろうか?(下品)
 殊更このように、金田一の原作ってやたらエッチなんすよ。やたら、とかいうと語弊があるか・・・なんか大人向けだからいろんな意味で開放的と申しましょうか。それも違うか?(笑)
 マジで半分くらいしか読んでない私が断言するのもなんだがね。
 今読んだらもっと違った見方になるんだろうか?漢字を覚え読解力が少しは発達しただろうし、今なら珍妙な女達の心理状態も理解できるのだろうか?そして映画は一体どんな表現を用いていたんだろうか?────まさか、ピンかりキリまでポルノな場面を盛り込みはすまい。
 もう一度見たいなあと思います。
 原作もね、もう一回読もうかと思うんだけど、どうも手が出ない。
 やはり私は市川昆が監督して石坂浩二がやったバージョンの世界観に惚れてるだけらしく、なんとなく原作に拒絶感を持ってしまっているんだもん。
 考えると、普通は原作の方がいいと言われるところを、映像がいいと断言できる映画を作る監督ってすごいよな。どっちから入ったか、という問題もあるんだろうし、単に子供向きでない本だったということもあるのだろうが。

 これが私の「三首塔」の記憶です。
 そりゃおかしいよ、と思った方がいらっしゃいましたら、本当のところはどうなのか是非教えてください。
 こう勝手なことを言ってますが、私は横溝正史大好きです。金田一を生み出してくれた人で、ちゃっかり映画で端役として出てたりするいいヤツだもん。
 だからそのうちいつかきっと、角川の文庫そろえてやろうと思ってますよ。まあいつになることやら。

 ところで、私の中で横溝正史と水木しげるのキャラがかぶってるんですけど、間違ってますか?

おわり


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