「トリコの娘」って知ってます?
っていうか誰も知らねえだろ。
まだこれを収録してるコミックは出たことないです。欲しいんだけど。
なんかTAGROという人が描いた漫画なんだけど、最近この人見ないな・・・どこいったんだろ。私の見える位置で描いて欲しいのだが。
えっとですな、こりゃ最近私が読み狂っているヤングキングアワーズ系の姉妹誌アワーズライトがまだ単なるアワーズ増刊2000だとか言われていた頃(遠いなあ)、十数ページの読み切りとして掲載されたなんとも記憶に残る傑作でした。
この一作だけでTAGROのファンになったものの、その後掲載された話の中には首をかしげるものもあって、要するに初めてみたのが最も秀逸なものだったのだな、という結論に至ってます。いや、他のが面白くないわけじゃない。最初が良すぎたんだよ。マジで。
その後アワーズライトに載ったヤツは面白くないのもあったしね。
今はもう実物を捨ててしまったんでつっこみ入ると反論できませんが、話としては奇妙な女の子(髪は長めで、まあこの世界としては可愛い部類の女の子だとは思う)が炊飯ジャーを持って見知らぬ男の部屋へ訪れることから始まったはず。
「それ炊飯ジャー?」
「それって私に女かどうか聞いてるようなものですよね」
という最初の会話で私の頭は思考停止ですよ。
なんだ?この会話。
男は女の人を泊めてあげて、お金を渡して必要なものを揃えるように言う。
端から見ている私としては、この男の行動がとても解せない。だってそうでしょ?
まあそりゃ見逃そう。
それから彼らは何故か家の掃除をすることを提案し、終えた後にファミレスかどっかでハンバーグを食った。
そりからまあ次の日だか2、3日だかたって家の女の子は炊飯ジャー見ながら、
「ご飯炊かないんですか?」
と質問するわけだ。機械があるんだから使った方がいいのは当たり前だ。けれど、
「僕は自炊はしないんだ」
といって男は外出し、そしてつぶやきます。
「────短くなってる」
何が?何がなんですか?
女の子の方は炊飯ジャーを抱きながら「おかしいなあ?」とつぶやいていた。
さて。彼が家に帰ると4つくらいある炊飯ジャーの真ん中で女がぼんやり座っていた。この情景も理解不能だ。
「見つけちゃったか」という男に「なんであるのにご飯炊かないのか?」と問う。
男は言った。少し、怖い顔で。
「それでご飯はたけないよ」
何故?
「これは全部君が持ってきたものだけど────君が持ってくる炊飯ジャーにはどれもコンセントがついてないじゃないか!!」
「?!」
────ここで、やっと男の行動に説明がついてくる。
彼女がここにくるのは3度目。彼女は多重人格で、病気のときだけここにやってくるらしい。
元に戻る徴候は「炊飯ジャーに固執し始める」ことで、段々その期間は一回目より二回目、二回目より今回と短くなってきていた。
「きっとまともな君にはいい医者ついているんだろう。勿論、僕にとって本当の君こそが全くの他人だった。きっと君がまともに戻ればもうここには来ないかもしれないね。でも、帰って、病気を治して、またここに来て欲しい」
いろんなことを急に告げられ、追い詰められ怯える女は男を見上げる。
男は微笑んだ。
「────きみが好きなんだ」。
────まあ全体的にはこんな話です。単純明快。
単純な線で描かれる画面(ほんとに、単純な線なんだよ。簡略化された人物像というか・・・なんかそこまたいい感じというか不可思議感倍増というか)と不可思議少女との間に流れるゆったりとした時間。
そして重要なのはですね、この中で取り上げられる一冊の本、「おもいでエマノン」なのですよ。
そりゃ勿論最近徳間デュアル文庫で再び世に出た有名な(らしい)SF小説ですよ。まあ私はこの漫画見るまで全く知りませんでしたが。
これは生物の過去の記憶を全て持っている女の子・エマノンを主軸として語られる短編小説集で、なんというか深いのか浅いのかわかんないいやむしろ深いのだろうテーマが延々とつづられるものでした。
漫画の女も男も名前がでてこない。「エマノン」というのは「NO NAME」の逆さ読みしたもので、その辺りも内容にひっかけてるのかもしれないね。
漫画読んでるときは勿論「おもいでエマノン」なんて知らないから、二人が交わす会話の内容がピンとこない。面白いんだけどなんか響かないのですな。確か、
「過去の記憶のあるなし」ついて語ってたのかな・・・んで、女の子が「違うわ。未来の記憶を全て持ってる」とか言ったら「残念、それも小説の続編にでてくるキャラクターだ」とかいう話になってたような・・・駄目だ。うろ覚えだ。
「トリコの娘」の女の子がこの本を好きらしいんですね。
んで、二人でこの話について語るとこがあって、最後に何故男が「おもいでエマノン」を知っていたのか?という種明かしがあるんですよ。
真実をつきつけられた女の子に、「そのジャーをあけてごらん」と言ってあけさせると中に「おもいでエマノン」の文庫が入っているのだが。
で、興味湧くじゃん。こんな使い方されると。
・・・・・・なのに、その「炊飯ジャーの中に本」という変なコマの外の枠に「今は絶版されてます」とか書いてあるじゃないか!!で、がっくりしてたら、たまたまデュアル文庫でもう一回出してくれたんで買って読んだ、という話になるんですけども。わかりやすい人間だね。
読んでから、ああ、なんとなくこの話でこの本が織り交ぜられた気持ちがわからんでもないなと思いました。思ったけど、それは言葉にしづらいね。
読んだ感想としては、前述の通り「深いんだか浅いんだかわかんないよ」になるんだし。
表題作の「おもいでエマノン」は深いテーマとかいうよりも、成長した大人にノスタルジックな感情を思い起こさせるという部類において記念碑をたててお参りしたくなるんだけどなあ。
その他のものに関しては、とくにあんまり思うことはなかった。
中にはいい話もあるんだよ。エマノンと結婚しちゃった男の悲哀なんか大変そうで。
だって結婚した女が子供産んだ瞬間記憶喪失だよ。大変じゃないか。
というのもですな、エマノンという存在が意味不明なんだけど、とにかく人類の起源からの記憶があるのは当然のこととして、子供を産むと自分の生活も含むそれらの記憶はごっそりと次のエマノンに引き継いじゃうらしい。産んだヤツはもぬけの殻になって、新しいエマノンはまた進化の最先端で今までの記憶にまた記憶を堆積させていくのだね。
ふうん、いい話だねえ────と普通に読んでたんだけど、たまに読むこと自体たいぎくなることがあるんで、多分私の方向性と少しズレてはいるんだろうなと思うこともありました。
SFなんだよな?これ。私はSFあんま読まないしなあ。
よくわかんないが。
関係ないけど、「あしびきデイドリーム」なんてかなり「トリコの娘」にあてはまる設定じゃないかと思った。
漫画自体にこの内容は影響してないだろうけど(だって多分発表されたのが漫画より後だし)、そのセピア色と表現すべき郷愁の中の思い出にかなり重ねてましたよ。いや、これはいい話だったよ。
結果として幸せな終わり方ではないと思うが、そこがまた良かった。っていうか運命には逆らえないのか?と思わせる部分もあった。そりゃまあいいが。
一回で2度おいしかった「トリコの娘」。
コミックになったら絶対手に入れようと思っている次第です。
みんなもどうですか?
おわり
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