センチメントな私。
昔を懐かしいと思うことはありますか。
昔を羨ましいと思うことはありますか。
あの頃のことをほろ苦い感覚で思い返しますか。
だったら、読みましょう。この本。
「センチメントの季節」(榎本ナリコ/小学館)を一番最初に見たのはいつのことだったか。
第一巻に収録されてる、「かくれ家」という話を立ち読みしたんだったか。
すごく強烈な印象を持ったんですよね。なんつーか、この話の根幹となってるのが、中高生の年代を中心にした「性」の話なんですよ。なんか一番悩む時期とかいうじゃないですか。微妙なお年頃で、性の話なんて。まあ私にそんな悩むとかいう経験はないですがね。
だからかなんか知らんが、20ページくらいの中で出会ってセックスして別れる、という一部始終の内容がきちんと入ってるんですわ。っていうかよくこんなの立ち読んだよな、私も。
でも主役は仕事に疲れたサラリーマンのおっさんなんすね。
その人が生活に疲れ、ある廃屋に入って休憩しようと思ったら、女子高生の先客がいた。なんとなく一緒に過ごして、何回目かのとき女の子が「やってもいい」っつーからやっちゃうんだが、女の子の方もそーとーなんか人生に疲れている雰囲気だ。
「遠くへ行きたいのは本当……」とか切なく言われたら私だってぐっとくるわい。
結局廃屋は取り壊され、女の子とはそれっきり会えない。そして主役のサラリーマンの妻には赤ちゃんができる。
でもサラリーマンさんは取り壊されていく廃屋を見るたび、「まだどこかにかくれ家があるかもしれない」とちょっとせつなく思っているようだった。
すごくせつない話だったんだ。文章にするのは難しいけど、なんかもどかしく懐かしく切ない人生の縮図がそこにある雰囲気?
でも立ち読みしたのはそこだけで、コミックがでたとき直感した。
これは、もしやアレでは。
思わず買っちゃいましたよ。
そしたらなんかもー、最初から最後までそんな感じ。
一話完結で10話入ってるんだけど、そりゃまあ人の好みで良し悪しあって、そこまでぐっとこないのだってあるけど、大体がなんか懐かしさと悔しさともどかしさが混ざった妙な気持ちになる話ばっか。
特に「反コギト」ってヤツはいかす。
「電車の男」の痴漢も、そりゃないだろうと思うがまあ彼女の気持ちもわからんでもない。
1巻が秋の章ということで、秋が舞台なんですね。
で後書きで作者が語るんですね。
「大人になってしまった自分が昔のことを憧憬する感じで、思い出して書いてる」みたいな。違うかな。とにかく、私がそう感じたように、作者もそう考えて書いてるんだと思ったんですよ。
若者はいいなあ、でも今あの頃のことを考えると懐かしいやら恥ずかしいやら情けないやら羨ましいやら………とかなんとか、きっといろんな感情を詰め込んで描かれてるのだろうと推測したわけですよ。
が。
私1巻買ったあと知ったんですけどね。
この榎本ナリコって人、「野火ノビタ」というペンネームで同人作家やってるんすよ!
なんだって?!私、野火ノビタ嫌いなんだぞ?!
────あー、でもまあいいや。面白いもんは面白いんだから。
そのうち2巻の「春の章」が出る。
「桜前線」という話が怖くてね。大学生の男と高校受験の女の子の話なんだけど。
男が家庭教師をしていて知り合ったらしいんだけど、家庭教師じゃなくなったあと付き合い始めるんですね。で、受験あって、高校生になったらヤッてもいいよって女の子はいうんだ。男の方は襲いたい光線ばんばんなんだけどぐっと我慢してるわけ。
で、合格発表あるんだけど、報告に来てくれない。そして桜が満開になった頃、女の子は高校の制服をきて彼のアパートにやってくる。なんだ、受かったんじゃん。
もうエッチ解禁ですわ。
しかし、彼女は出血しなかった────これが彼にとって結構衝撃だったらしい。
直後の「私、中2のとき先輩とやりまくってたの」という言葉も胸をさす。そして、とどめの一言。
「私、本当は高校落ちたの」
次の日、高校受験失敗して入水自殺した人がいると聞くが、それがあの子なのかどうか心配だけど確認できない。根性の無い男だ。そうこうしているうちに時は過ぎ、実家で父親が倒れたので彼は農家をつぐため田舎へ帰った。
母親が用水路がつまってるから見てきてくれという。言ってみた。何かが詰まっている。
そこには────あの、女の子の、死体。
勿論それは幻覚だったんだけど、毎年桜前線の話になると怖くなる。
彼女が、追ってくるようで。
……まあこの話も、私としてはホラーだなと思ったけど、姉はそうでもなかったらしいから。
他にも3巻の「落ちていた男」とかもホラーっすね。
悲しいとなると、同じく3巻の「汚れた悲しみ」。自分で中学生の男の子にエッチなこと教えていったのに、そいつがなれてくるとなんかすごく悲しくなるの。ウブな彼が可愛かったのに、という感じですか。
4巻の「ハートのチョコレート」「人間失格」も切ないっすね。
でもやっぱり「反コギト」の焼き直しっつーか、元ネタ一緒の「あなたの埋葬」が私は一番良かったと思います。こんなわけ分からん男でいいから、仕事ほっぽって男のもとへ全力疾走してみたいもんだ。
とかなんとか。
勝手に言いたいこと言ってて、知らん人には全くわからん感じになってしまいましたが、何が言いたいかって切なくなるから買ってみて、という話さ。
4巻で季節を一巡したから終わるんだなと思ってたら、なんだか大人気だったらしくしかもドラマ化にもなったとかで(WOWOWあたりか?)、季節が二巡目に入っちゃったんだよな。
二度目の秋の章とか始まってんの。詐欺だー、そんなの。
でも買うんだけどね。
今7巻の「2度目の夏の章」が出たとこです。2度目シリーズは一話完結でなく、1つの話を10話でやってるみたいです。
あんまり面白くないなと思ってたら、7巻目茶目茶良かったんすよ!
主役が私の年齢に近かったせいかもしれない。
主役の男は大学生。そいつに言い寄ってきた高校生は、実は主役の男のクラスメートだったというオチがつくんだが、そんなネタバレなんかどうでもいいんだって。
その女も確かに行動は気もち悪いが(っていうか、男の行動の方がはっきりいって気持ち悪いんだけど)、彼女の痛い感情はすごくよくわかる。わかっちゃまずいんだけど。
そして、男の方。
高校のとき短歌を隠れて作っていたけれど、大学生になるとぱたりと新作が書けなくなった。
高校生に戻れば────あの頃に戻れば書けるかもしれない。
才能の限界を感じることほど辛いことはないだろう。
なんか私も辛くなっちゃったよ。こいつ、いろんな意味でやりすぎだけど。
ラストシーンも泣かせました。たまにはハッピーエンドも良かろう。今回は許す。
偉そうに書いてますが、実際本当にこの漫画面白いし凄いと思うんですよね。
あの頃を懐かしむための一品です。
だから、子供は読むなよ。
んで、別に懐かしくも切なくも辛くも苦しくもこっぱずかしくもない奴も読むな。
こんな気持ちっつーか、複雑な気持ちわ持てるヤツだけの特権だからな。これは。
終わり。
もどる。