頑張れ百合川!〜ゾンビ屋稼業繁盛記


 世の中数多くのホラーコミックが氾濫しております。
 専門誌も数多くあり、それだけありゃあコミックだって総じて増えてくというもの。
 そいでね、大体ホラーってのはちょっと絵の下手な(むしろ汚い)人が書いてないですか?どっかで同じ定義を披露した気もするが、まあ下手だからこそ怖いものが書けるという道理もあり、まあ別に内容が面白けりゃどっちでもいいんだけどね。
 ところで数ヶ月前、ある冊子にホラー漫画が紹介されてました。
 冊子というか・・・ある人が個人的に作ってる文芸誌みたいなもんで、コピー誌っぽく薄っぺらでかろうじて生き長らえている冊子なんですよ。私も寄稿させてもらってます。その節はありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
 その通算29号の巻頭である見知らぬ人が本を紹介してました。
 なんというか、恐らくその彼の文体が良かったせいもあるんでしょうが、とにかく内容に魅せられすぎて「これは読まねば!」という気にさせられました。だから恐らく私のこの紹介文よりもその人の読書感想文見た方が雰囲気は伝わると思うんですけど、もう、私的にも語らずにはいられないほどの素敵さだったんで言及させてください。


 世の中、こんなに荒唐無稽な漫画が氾濫してもいいのだろうか?っていうかもっとこういうの書けばいいのに……と思わせられる漫画。それが、
 「ゾンビ屋れい子」/三家元礼・ぶんか社
 最初聞いたときは、ありがちなボロボロの絵の単にスプラッタな漫画だと思ってたんですよ。ぶんか社だしね。
 けども。
 本屋で表紙を見たとき思わず謝りました。ごめん。絵は可愛い系でした。
 内容というのは、もともと、「死体を一時的に蘇らせて死の真相を語らせたり、肉親と会話させたりする女子高生の一話完結痛快話」だったんですよ。本当に、ちょっと感情の冷血そうな女の子が依頼人に呼ばれて、死体を蘇らせてっていうどっちかといえば地味な話。
 で、「もともと」というのは何故かっつーと、一巻の最終話ですごいことになるんだよ。
 この子の町に住んでる「幼女29人殺し」の犯人の女子高生百合川サキという女が登場、2話分のイントロダクションをふまえ、遂にれい子と対決!────と思ったら、出会った瞬間れい子が百合川に首ちょんぱされ即死、対決の舞台となった病院は混乱したが、更に混乱したのは、自ら自分をゾンビ化させれい子は復活、百合川を追ってドロドログチャグチャの殺し合いへ発展する。けれど硫酸浴びせられたれい子は本当に生首だけになり百合川の勝利は確信された。
 が。
 生首だけのれい子は「ゾンビ召還術」を行使、殺された29人の幼女を召還し百合川をミンチにして逆に勝利したのだ。
 「ゾンビ屋を敵に回したことを後悔するがいい!百合川!!」なんて言葉、かっこよすぎて惚れました。でもれい子自身は生首なわけで、死んだままなんだよね。これが一巻の最終話40ページ足らずで描かれた展開です。私の空想では、この百合川と2,3回ぐらいかけて戦うのかと思ってたのにたった1回だよ。びびったよ。作者、後先考えてないだろと思ってたら、実はそうでもなかったというか、逆に行き当たりばったりというか。
 2巻からは世界総ゾンビ化計画(なんじゃそりゃ)を推進するリルカたち一味との対決話になる。
っていうかリルカの野望もおかしな話で、皆がゾンビになったら映画もテレビもJ・POPもみんな私が楽しむために作られるのよとか言ってんだけど、みんながゾンビになったらそーいうのは誰が考えてくれるんでしょうか。
 とりあえず、れい子はそばで殺された若いゾンビ屋の体と合体して復活し、双子の姉リルカの野望を察知、何故か同じ学校にいる高校生ゾンビ屋と仲間になって山奥のリルカの居城に乗り込んでいくのだ。
 もう、「一時的にゾンビにして」とかそんなこと言ってる場合じゃない。ゾンビ屋はゾンビを召還して戦わせる、一種の使役人の立場になっちゃってるんだよ。それもやっぱりゾンビ屋のレベルによって出てくるゾンビにも力に差があって、力がないと「ナチスドイツ機甲部隊兵・1941年ソ連へ侵攻の際味方の誤射により死亡した兵」みたいなのが呼び出したマスターの命令をあまり聞かず機関銃ぶっ放してただの阿呆を披露する、みたいな情けないものしかでてこない。
 にしても、一番力のありそうなれい子が召還するのが、1巻でぶち殺した百合川サキだというのはどういうことなんだ?と思ってたらすごいよ、百合川。そこらのゾンビよりナイフ一本であっち行ったりこっち打ち殺したりすごく役に立つ。私、1巻のおまけページで似顔絵コーナーがあって、その中の百合川の似顔絵の下に「サキのファンも多いんだよね」と明るく書いてあって、「おいおい29人も幼女殺してにやにやしてたこの女のファンってなんだよ(しかも似顔絵平均年齢が12〜14歳くらいだし)」と思ってたんだけど、訂正。
 私も百合川のファンですわ。
 本当にかっこいいんですよ。あんな昔の悪事はもう忘れよう。れい子に召還されてきちんと仕事をこなし、切り札ともなり、ナイフがなくなって「好きな武器を選びな!」と差し出されたものの中でチェーンソーを選び、口であの紐っつーかエンジンかけるみたいなヤツをひっぱっている姿は素敵すぎて惚れました。
 本当にこいつ高校生だったんだろうか?ゾンビとして召還されたら運動能力が格段にあがるとか、そういう話にしても少し能力があがりすぎている気もするが……まあ生きてるときも走ってるトラックに飛び移ったりしてたし悩む必要も無いかも。
 他にもゾンビは多数登場した。
 れい子率いるゾンビ屋数人とリルカ配下のゾンビ屋多数+αたちが呼び出すゾンビ多数のお話だからそりゃもうページ開けばいたるところゾンビゾンビゾンビ。
 バイオにでてきて「あ゛―あ゛―」って言ってるゾンビじゃ話にならん。中世の死刑執行人やら、アメリカ開拓時代の無法者やら、十字軍の遠征に行った騎士やら、まともでなくしかも半分狂っててひどい死に様だった人たちがそこかしこを縦断している。しかも、人間的には一番役立たずな少女が最後に召還したゾンビは本人ですら「これ、私がよんだの…?」と自問するようなすごさ。
 飛行機に乗ってやってきたのは撃墜王エディ。飛行機に装備された銃で、リルカの召還したゾンビ(いろんな強いゾンビの集合体。合体すると凄まじい力を発揮し、れい子も少し怯えた)を蹴散らしまくった。結局死んだけど。
 そう。
 この話、出てきてすごく重要そうな役割演じるのにあっさり死んじゃう。
 2巻で仲間になった人たちは結果として全員死んだ。凄まじいほどの話の展開の早さ。リルカとのこの死闘は1巻半くらいで終わったのだ。ジャンプなら2年は続いていただろうに、と思うと狂ったように話の詰め込まれたこの漫画、読まなきゃ損と私じゃなくても思うだろうよ。あっさり仲間が死んでくという展開が私心をくすぐりましたね。
 そこかしこに使われる言葉も秀逸。私は、召還された落ち武者のゾンビのセリフ、「合点承知」にはまりました。巨大なアナコンダのゾンビも素敵。


 ────と、こうやっていろいろ言いましたが、結局とどめを刺すのはれい子のゾンビ・百合川サキなんですよ。
 ナイフ一本で巨大蛇と戦い、他多数のゾンビを殺し、リルカのゾンビとも戦い、体がボロボロになっているにも係わらずまだまだ挑むその姿は、単にれい子の命令から逃れられないのか、生きてるうちにまだ殺したら無かったのか、ジャンプ的な「敵だって味方」という不文律に則しているのか、よくわからんがすごい。
 リルカとの戦いが終わったあとは、まだそれでも平穏な話が続いてるみたいです。
 でも本当に一番初めの大人しいものではなく、なんか掃除ロボットが暴走したり、キャンプ場で乗りうつられたり、いい感じです。
 多分、リルカ騒動で作者の天才的な素質に火がついてしまったんでしょうね。こんな発想できんというか、あんまり見たこと無いもん。天才鬼才奇才……私の中ではどんな言葉も追いつかんほどの衝撃を受けたわけですが、もともとこれを紹介してた人の談では「単なる狂人」らしい。
 そうかなー、天才だとおもうけどなー。
 4巻の最後では、あの百合川サキの妹が登場、更に私好みに血の雨が降りそうな予感急上昇中です。
 まだ5巻はでないですが、でたら買う。巻を追うごとに巨乳になっていく登場人物たちのチチの行方も気になるし。百合川なんか、扉絵でかっこつけてるポーズのチチ加減がかなり巨乳でびっくりしたよ。いやあ、かっこいい。
 ところで作者って男だと思うんですけど、本当のところはどうなんですかね。
 なんか内容が男の発想くさい。仲間になって戦ったり、ゾンビを使役することで勝利したり、昔ぶち殺した敵を部下としたり、なーんかジャンプで育った少年がホラー雑誌でそれの真似事やっている、という雰囲気に思えるんですよ。第一、ナチス機甲兵とか西部開拓時代の無法者とか落ち武者「首落士」とか女性の発想じゃない気がするもん。まあ世の中いろんな人がいるから一概にはくくれませんけどね。でも女の子ホラー雑誌だからこそできるネタだしなあ。
 まあいいか。内容は面白いんだからな。
 そんなこんなで。
 結局何が言いたいかって百合川がかっこいいってことですわ。あと、主役をけっこう好きになれる珍しい話だったし、皆さんにも読んで欲しいと。
 ちょっと漫画として時系列がおかしかったり、「あんた学校であんなことしといて警察に捕まらんかったんか?」とか疑問は残るがそんな疑問はまあいいか!と許せる範囲の勢いがあります。
 いや、掘り出し物。これ。
 久々に熱くなっちゃったよ私。

終わり
もどる。