Dフェーン現象との戦い

 成長期に黒田さんに無理矢理風きり羽(文字通り風を切るための羽。これがないと思ったようにスピードがでない)を抜かれ、アラシも次郎もお互いやる気をなくし練習すらさぼっていたが、これでは駄目だと思い直して猛特訓。
 だっていつのまにか風きり羽は生えそろい、次郎がいかに貴重な時間を無駄に過ごしたかを思い知ったんだもん。
 全くレースに執着を見せなくなったアラシも、ライバルたちと強風の中競うことで優秀な鳩への階段を一歩あがることに成功し、またレース三昧の日々へ戻る。
 短距離レースを何度か行い、再び500キロレースになったときその出来事は起こった。
 フェーン現象である。
 よく聞く単語だけど、要するに「季節風が山を越えるとき乾燥した熱風になって吹きおろす」現象のこと。鳩が飛んでくるのはちょうど熱風になる海側だ。
 こういう場合、暑さに弱い鳩に不利だというだけで、あとはどうしようもない。賢い鳩なら休むことも考えるだろう。それで休み癖がついてしまえばそれはそこまでの鳩だったのだ。
 ライバルの鳩たちは暑さがなくなるまで休むことに決めた。
 しかし────マグナムとアラシは飛んでいた。そしてアラシは川わ発見する。川の上を飛べばいくらか涼しいのだ。なんだ、すごく楽な道を見つけてしまったじゃないか!
 そのままずんずん進んでいくと、アラシは何時の間にか魔の中通りに入りこんでしまっていることに気付く。天気は悪く雨も降りだす。
 しかし、フェーン現象という暑さの中を飛んできたアラシにとって、中通りの冷たい雨は天の助けだった。先ほどの暑さに比べたら、こっちの方が余程いい。
 いい気分で飛んでると、前方に聞いたことのある羽音。
 それはもちろんマグナム。────兄弟の熾烈な戦いは幕を開けた。
 またしても中通り悪天候で更に体力を落とし挫折しかけたアラシたちは、幻聴なのか偉大なる父・グレートの羽音を聞きまたやる気を取り戻す。
 気温が下がり他の鳩も飛び立ってレースは再会。大きくリードをつけていたにも係わらず、体力の低下でスピードの落ちたアラシとマグナムはほぼ追いつかれ記録としては他のライバルたちと同着になってしまう。
 まあ、放鳩地からの距離を計算してマグナムが優勝することになるのだが、どちらにしろ苦労したがりな鳩ではある。
 も少し頭を使えばいいのに。