C500キロ600キロレースの行方

 アラシは無事500キロレースへ出る。
 強豪メンバー集う中、無闇に飛び出したのはトップと、アラシ、そして兄のマグナムだった。トップは後ろの2羽を引き離すこと、アラシたちはトップに追いつくことに必死になり、いつのまにか阿武隈山地に差し掛かり間違って中通りのコースを選択してしまう。
 当然のように悪天候、雨が降り始める。
 トップは雨を知らなかった。
 マグナムは雨を憎んでいた。
 アラシはなんだかわからないが、とりあえず3羽ともに共通する心は「こんな雨の中、普通に飛べやしない!」ということ。しかし彼らは飛びつづけなければならない。レース鳩だから。鳩舎で飼い主が待っている。
 そして最初に脱落したのはトップだった。
 もともと短距離型で500キロ以上になるとスタミナの続かないトップ、悪天候な中を飛びつづけられるほど強くないのだ。アラシたちの目の前で彼は墜落、もちろんその姿を目の当たりにしてしまったものだから焦る焦る。
 焦ってかえってスタミナを使い、もう駄目だ、と木の茂みにおりて休もうとしたとき ────背後で力強いはばたきを聞いた。
 彼らの父親、グレート・ピジョンだった。
 不甲斐ない息子たちを見捨てるかのように、彼は悠然と素通りしていった。そのはばたき、堂々とした姿に息子2人は一瞬でも休もうとした自分を恥じた。そして父親を追って改めて飛んでいったのだ。
 アラシたちは雨に濡れ衰弱はしていたが、きちんと戻ってこれた。
 アラシなんて10位入賞を果たしたぐらいだ。
 けれども現実はいつも厳しい。息子たちに飛ぶ勇気を安心感を与えたうえ、自分たちが目指す鳩の姿はこれだと叩き込んだあのグレートが亡くなったのだ!
 恐らく中通りを通ったことによる衰弱死とかじゃないかと思うが(もう若くないだろうし)、3巻にしてこの偉大なレース鳩は還らぬものとなってしまったのだった。
 さて、600キロレース。
 前回のレースで墜落したトップはでなかったが、他のメンバーはそろった。
 今回のレースでの目玉はなんといっても、放鳩前後に起きた地震だ。地震は地磁気を乱し鳩の方向感覚を狂わせる。
 苦労して飛んでもその日の夕方までに戻れない。夜目のきかないものは朝まで休憩して飛ぶことはできず、アラシたちもあきらめかけた。・・・そのとき!
 国道のライトがともったのだ。その明かりを味方にし、アラシたちはどうにかこうにか鳩舎へ戻ることに成功した。
 さて、今回の優勝者。
 それは方向感覚に優れているはずなのに、地震の後急にコースを大幅にずらしまったく別の方向へ飛んでいったオフクロだった。
 オフクロは飼い主の佐清の放浪の旅でいろんなところを飛んだことがあり、記憶を頼りに、地磁気なんてなくても最も近いコースを選択できたのではないか?と思われる。
 鳩は何を頼りに飛ぶのか?地磁気か?記憶か?
 未だ解明されない命題だろう。