ハーメルンのバイオリン弾きの思ひ出


 エニックスの少年ガンガンでいまだに連載されているという、化け物みたいな長寿漫画のアニメ化を知ったのはいつのことだったか。
 明らかに小学生向けの絵柄や、乱暴なコマ割り、読みづらい画面ということで、当初は原作自体には全く興味がなかったものです。本屋のバイトってのは本好きにとっては割りのいいもので、気になるものは中身を拝見できるという特権がありましたから、パラパラめくって「ダメじゃん」と判断くだせていたんですね。しかも主にコミック担当だったから、見たい放題ですよ。こんな夢のような職場があっていいのだろうか。
 で。
 アニメ化という話になると、入荷される帯に「テレビ東京系列でアニメ化」とか書かれてやってきます。
 テレビ東京か、また見れないなという感想の反面、私は帯に印刷された「アニメの」絵に惹かれました。
 明らかに原作とは違う綺麗な絵。洗練されたタッチで、美しい色指定。普通とゆーか、一般的には原作つきアニメってのは、原作より不細工な絵になり珍妙な話になって電波にのるものなのだが・・・これはなんか違う雰囲気だぞ、と気になったのが最初でした。
 気になったら中身を知りたいのが人情ってもんでしょう。
 休憩時間とかにちらちら見てたら、なかなか面白そうな話だ。
 まず読んだのは10巻あたりからで、主人公ハーメルと親友ライエルの昔の話。昔アンセムの街で何があり、パンドラ母さんはこんな人で、そして現在があるという興味深い話ですよ。あと、ハーメルの妹のサイザーが仲間だった魔族にやられそうになって、それを助けにハーメル勇者ご一行様がやってきてどーとかというところですか。感動的な場面でした。
唐突にそんな中途半端なところから読む私も私だが、もし1巻から読んでたら絶対途中で諦めてたであろうと思う。それほど最初と現在の話の方向性が違うのだ。
 おおまかなストーリーとしては、「魔族の王の子供として生まれたハーメルが、人間の母さんの立派な教育ですくすくと育ち、人間どもの凶悪な迫害もなんとか切り抜け、親父であるところの魔王ケストラーを倒す旅に出る。複雑な出生故に仲間とのいざこざとか、旅に暗い影はいくらでも落ちたが、町娘・実は王女のフルートの明るさに助けられつつ仲間同士団結して魔王打倒を誓って戦っていく」という勇者物語の王道ですね。
 ただこの話でネックとなるのが「主役が魔王の子供」というところ。これさえなけりゃ、完璧な勇者物語で落ち着くのだが、そーいう暗い背景が物語のそこここでとかくねちっこい暗さを演出していく。
 が。
 もともと1巻では、そんな暗さ加減なんて全く見えない、単なる勇者が北を目指すだけのギャグ漫画だったのだ。
 恐らく何も考えずに描いてたら人気が出てきて、仕方なく後づけ伏線を張っていくうち収拾がつかなくなったのではないか・・・そうとれるような苦し紛れの展開が目立つようになってくる。第一、親というか村を魔族化したハーメルに壊滅させられた、というとてつもない恨みを持ったライエルというピアノ弾きが、どういう心の過程で彼を許した上で絶対の信頼をおき旅に同行するようになったのか、そこが見えない。
 ライエルという存在が、この物語序盤の最大の疑問だった。
 でも、ちびっこが読み、正義と悪のメリハリつきすぎのこの話に、ライエルという「ハーメルの過ちを全て許し受け入れて親友として旅をする」という美談な青年は不可欠だったかもしれない。
 そんなこんなで仲間を増やしつつ突き進み、スフォルツェンドとかいうところででかい戦闘を繰り広げ、また旅立ち、仲間を加えたり減らしたりしていくうちに、「ハーメルの双子の妹で天使の羽を持った魔族の軍団長」が魔族を裏切ったというかどで殺されそうになっているところに出会ってしまう。
 私はこのあたりから、その妹サイザーが仲間になって旅をしてたらオル・ゴールとかいう卑怯臭い奴の罠にはまって仲間うちの心がばらばらになっていったとか、フルートを見捨てていこうとするハーメルを止めようとするサイザーを更にとめたライエルからの昔話、そして次の国でまたしてもオル・ゴールの罠にはまって完璧魔族化したハーメルをフルートが見を挺して元に戻したとか、そんな涙なしには語れない恐らくこの漫画で最もいい話の部分だけをチョイスして先に読んでしまったらしいのですね。
 時期的にもアニメ化ということでコミックは売れてました。
 バイト先の本屋には腐るほど本がある。
 気に入った本は買ってしまうのが人情でしょう。
 そろえましたね、凄い勢いで。
 でわかったことは、この漫画が当初はギャグシリアスが8:2で話が進んでいたということ。絵がお世辞にもうまいとはいえないこと(うまいとは思うが特徴がありすぎて見づらい)、極めつけはストーリーの展開が遅すぎということ。最初はそれなりにテンポいいのだが、話がシリアスの割合がましてきギャグの割合と反転してしまったとき、このストーリーの遅さは最高潮に達した。CLAMPとどっちが遅いかと聞かれると、多分ハーメルンじゃないか、と考えるくらいには遅い。こんなんじゃダメだよほんとに。
 それでも結構面白かったのは確かです。やりすぎな古典的ギャグと、重すぎる主役の過去が私のハートをゲットしました。
 これがアニメになるのか・・・まんまやってくれたら確かに面白いかも。
 そう考えながら時がたっていくと、勿論アニメはビデオ化になりレンタルの棚にきちんと並んだ。テレビ東京のアニメはレンタルでしか見れないから、とりあえず借りて見ました。かなり期待して。
 オープニング。
 歌ではなく、唐突にスフォルツェンドでの戦いであろう画面がでてくる。敵の魔族がなにやら喚いている。そんなことより驚いたのは、とてつもなく絵がきれいなこと。色使いも合格点なこと。とにかく原作を凌駕した画面だった。
 そして場面は変わり平和な村の日常が現れる。今の戦いの場面はこれから先起こることらしい。
 平和な村には唐突にフルートが現れ、村はずれに住んでるらしいハーメルの家の扉を叩き・・・・・・あれ、原作と違う。最初から二人は知り合いじゃないし、第一こんなのどかな村になんぞ住んでいないぞ。ギャグ満載な話だったのに、そんなところは一つもなくただただ真面目に暗くシリアスに話は展開していく。原作の面影なんぞ一つも見せずに。
 勿論、原作と同じところもある。出てくる主役格の生い立ち、設定、とにかく基本的な暗い過去とかは踏襲されてはいたが、話の展開自体は全く異なる様相を呈していた。
 要するに一つの話を完璧に崩し一つ一つのエピソードに分解したうえで、辻褄があうように再び再構成したということらしい。しかも、ギャグの部分を抜き暗さ満点のところだけを抽出しての展開。
 こーいうのもアリか、と感心した。
 原作通りじゃないと怒りたくなるアニメがある。でもそれは正直、中途半端に原作の設定を使い、原作の人気に頼っていい加減にサイドストーリーを作っているからムカつくのだ、と理解した。原作の設定をきちんと生かし、それによって別の話を構成するのはとても難しいことで、その難しいことを成功させたのがこのアニメなのだ。
 すごいと思った。
 こんなアニメ、今まで出会ったことがない。
 しかも絵がきれい。かなり腰が細すぎるのが気になるが、聖闘士星矢だってあんなに細かったんだから別に気にするほどのものじゃない。
 ここまで惜しみなくいいアニメ見せてもらったらハマるに決まってる。私はとにかく次のビデオがでるその日を待ち焦がれるようになりましたとさ。


 次のビデオが出る頃、私は楽しみ過ぎてハーメルンのことしか考えてなかったです。
 全く話が違うというのに、ハーメルンの単行本を全巻出してきて読み返し、早くビデオでないかなあと思ってました。要するに予習してたってことですが、話違うのに予習もクソもないですね。
 このアニメ、二部構成になってて最終話はきっと打ち切りで終わってます。
 第一部は単行本の7、8巻ぐらいまでで、スフォルツェンドでの大きな戦いが終わるとこまで。第二部はかなりかっとんで、超脇役だったスラーとかいう国の王様の暴走っぷりに焦点をおいた話になっている。
 第一部はそれでも普通だった。暗くて、どうしようもなかったが、それでも普通の話だったと思う。
 問題は二部。
 スラーの王様、妻子をサイザーに殺された復讐のために子供たちを機械化するというのはどういう了見だろうね。でもまあ、そういう話の展開自体はいい。暗いのは好きだし、阿呆みたいに悪役ぶる王様もご愛嬌というもの。
 ただ問題は伏線張りすぎという点だ。
 伏線というかなんというか・・・サイザーがスラーの王子たち(6人ぐらいいる)と戦っている。お前らはだまされてるんだよ、とかなんとか皮肉を言う場面がある。そんなことあるもんか!と中の一人が叫ぶがそいつに向かってサイザーは「・・・」と告げる。そう。口パクで何言ってんのかわかんないのだ。
 そのことに気をとられた王子はサイザーにやられて墜落する。
 どうしたんだ、と叫んでそいつを助けにくる他の王子にそいつは小声で告げる。「親父様は・・・・・・」
 これまた口パク。
 だから、親父様がなんだというのか。みんなが「まさか、親父様が・・・」「そんな・・・・」「ふん、バカが。おまえら・・・・・・」とかなんとか、大事な部分は全部口パク。結局その回で語られることはなく、下手したら次の回でも謎は解けず、別にそれでいいけどなんて伏線好きなアニメだろうと思ったものです。
 相も変わらずな高画質。
 暗い話は伏線だらけ。
 そして物語は佳境に入り、アニメにおける彼らの過去とかが暴露されてくわけです。いつもハーメルの傍らにいる、元魔族の軍王オーボウなんて、カラスだったくせに急にダンディな人型に変わって血ぃながして叫ぶ始末。鼻眼鏡なんかしちゃってイギリス貴族みたいでイカす。ライエルに狂っていた私が、「オーボウがいい」と真剣に考えるくらいの変貌ぶりだった。
 アニメの結末としては、絶望的な形で幕を閉じるわけですが、それについては皆さん自身の目で確かめてください。
 これ以上暗い終わり方が他にあるだろうか、いやない、と反語で語りたくなる内容でした。でも暗いというか、絶望的な話はとても好きなのでそれでいいと思いますね。ある意味完璧な話でした。


 んー、大体アニメっていうのは子供が見ると相場が決まっているもので、どういうものにしろ大体幸せに終わっていくものだと思うのです。打ち切りだとしても、某ジャンプのように「これからオレたちの真の戦いが始まるんだ云々」と希望を背負って終わりだとか、とにかく不幸ではない終わり方をするはずなんですわ。
 なのに、ハーメルンは凄く不幸な終わり方をした。やりきれない、といっていいだろう。
 けれど結構人生ってそんなもんだし、不幸に終わる話がないっていうのもおかしなことで、その点に関してもハーメルンは革命的なアニメだったと言えると思うのです。
 人気なかったみたいですが、私の中では大ブレイク、知り合い皆にこんなにいい話はないと力説して歩いたあの若き日を思い出します。
 またいつかこんな素敵な話にめぐり合えればいいのですが。
 そして原作はとろとろ話を進めず、さっさと終えてくれればいいのですが。
 アニメとは全く違うケストラーの無垢な絶対悪に感服しつつ、そう願ってやみません。


 ・・・いい加減にしろよなー、ほんとに。


おわり

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