独占スクープ!!

「○○○もきちんとした知能有る生き物と再確認できましたね・・・」
関係者が沈痛な面持ちで語る事件とは・・・?
人気と友情の狭間での彼の選択!!
しかしそれは新たな絶望を喚起させたに過ぎなかった────。

 某日某所、関係者は幾分緊張したように会議室へと入ってきた。
 もちろん今回の事件────しかしそれは数年前に揉み消されているのだが────について語ることは、すなわちあの永遠の5歳児である彼の罪を告発するということだからだ。
 今回のインタヴューは、我々の長年にわたる接触、懇願、なだめてすかしてやっと手に入ったこの貴重な30分間であり、いくら彼らが緊張し後悔していたとしても残念なことに帰してあげることなどできない。
 これは内密であり極秘の会談なのだ。
 だからこそ汚いビルの一隅にある、目立たない小さな会議室のカーテンを締め切り、パイプイスと小さなレコーダーだけを持ち込んでの作業となっているのだ。
 「本当はそんなことはないと思うんですが────」
 唐突に、しかし予想通りとも言うべきことばで、関係者の一人は切り出した。
 早く終わらせて帰りたい、その瞳は雄弁に語っている。他数人の男女もそんな表情を隠すことはしなかった。
 「でもフィルムに入ってたのは疑いのない事実です」
 「それこそが業界で抹殺された事件ですね?」
 僕の問いに皆がうなずいた。やはり噂は本当だったのだ。
 何年前のことになるのか、彼らは過疎の村で撮影を行った。彼らは某局のスタッフであり、ある有名人気番組の製作スタッフであった。
 山と海、両方を持つその村での撮影は順調だった。
 村の子供たち、レギュラー陣、そして永遠の幼児であるあの2人。
 「ちょうど海での撮影のときです。あれはなんというんでしょうか・・・防波堤?ですか。そこで全員そろってのカットを取って終わりにしようと思ったんです」
 「カメラを回していたら、ここで出演予定のない二人が走りこんできました」
 それは追う者と追われる者、正に言葉どおりの光景だったという。
 極秘裏に入手したその画像がこれだ。

 ────そう。
 追う者はあの「赤い食いしん坊万歳」ムック
 そして追われる者は「緑のでしゃばり妖怪」ガチャピン
 ムックはカメラの前にでてきてしまったことを悟ったのか、少し穏やかな表情に戻っていたと言う。フレーム外では、まさに悪鬼の形相だったらしい。そして堤の最先端まで走りこんだガチャピンは絶体絶命、疾走で体はフラフラという体ということがうかがえる。。
 2人は無二の親友────自他とも認める彼ら、何が起こったのかは知らないが大したことではないはずだ。
 しかし事態は急転する。

 上二つの写真からはわかりづらいが、ムックがガチャピンを突き飛ばしたというのだ
 あまりにも唐突であり一瞬のことで誰もその場から動けなかったことが見て取れる。下が海とはいえ、まだ冬と呼べる時期であり、落ちてしまった場合に必ず無事であるという保証はない。

 ありえないことが起こり、わけのわからぬまま落下していくガチャピン。
 それを正に「自分には関係ない」という驚嘆の顔で眺めるムック。

 そしてガチャピンは完全に海の中に消える。
 「誰も動けませんでした。出演者たちの中には子供も大勢いましたし────何が起こったのかをはっきりと認識したときは・・・」
 「子供たちの動揺はとても大きかったです。いつもテレビの中で仲の良い2人が命に係わるほどの喧嘩・・・・・・と言うんでしょうか?この場合。とにかく喧嘩をしていたんです」
 「その日の撮影はとりあえず中止になりました。確か再開は二日後だったと覚えています」
 状況を語る関係者の誰しもが暗い顔をしていた。
 やはり強引に聞き出すべき話ではなかったのか?僕の中でそんな言葉が浮かんだけれど、それは激しく否定して先を促す。これは本当にあったことであり、隠してはならないことなのだから。
 そして。
 この段階でまだ、話の本質には迫っていない。
 話が一段落つき、残り時間も少しになってきたとき一番隅に座っていたいた方が顔を伏せた。
 「私たちは誤解していたんです」
 「誤解ですか?」
 「元気で人気者のガチャピン、その親友というだけのムック────。同じ番組に出ているのに、人気も起用の回数も明らかに違っています。仮に私たちが彼らと同じ立場にいたとして、笑って何も思わずにそれを許容することができるでしょうか」
 ムックの立場を。
 スターへの道を駆け上る親友、その小さくなる背をただ見ていることしかできない自分。
 相手と自分の才能が開きすぎていることを知っておりそれを認めたうえで、その人と本当に仲が良くない限り黙って後ろから応援することなど不可能ではないだろうか?
 だからこそムックには不可能だったのではないか。
 彼は妖怪にしか見えないが、心は人間に限りなく近いのだろう。
 僕は再び入手した画像に視線を落とした。
 この小さな村で相方を消そうと────消すことはないまでも鬱屈をはらそうとしたムックの気持ちが少しだけ見える気がする。
 しかしそんなことは緑の妖怪にとって些事であったのだろうか。
 関係者たちはしばらく沈黙した。
 様々な話を、推測や憶測も含みその時の状況を語り、そしてその上何もいうことはなくなったのだろうか。相変わらず暗い表情の彼らに僕は何も言うことはできなかった。
 30分という与えられた時間は過ぎてしまう。
 全員が帰り支度を始めた。そのとき、一人が写真を2枚差し出した。
 「ムックはもうあきらめざるをえなかったと思います」

 次の撮影日────そこにはムックを蹴り倒すガチャピンの姿があった。
 ああ・・・・・・そういうことなのか。
 カメラの前であったとしても、その表情を偽っていたとしても、ムックはガチャピンを突き落とす恨みつらみ妬み嫉みを心の中に持っていた。それは背を一押しすることでいくらか晴らせたかもしれない。一人だけ先へと進む相方を文字通り突き飛ばし障害物を排除できたのだから。
 けれど相手は妖怪だった。
 そんなことになんの頓着もしない────底抜けにいいヤツなのか、馬鹿なのか、空気を読めない愚か者なのか。
 ムックは笑顔で蹴倒された。それこそ仲直りの仕返しとでも言うように。
 諦めざるをえなかったのかもしれない。
 自分とは違う、真実化け物と言える緑の幼児には、何も敵わないのだ。
 全員が会議室を去り、僕は一人ここに残って渡された写真を見ていた。

 ────胸に浮かぶのは、これは、畏れだろうか。
 
 ムックの身を切る選択は現状を何も変えず、ただただ緑の妖怪の絶対的な力を思い知らされただけだった。
 いつかあの妖怪を倒す者は現われるだろうか。
 その者はどう子供たちに受け入れられるだろうか。
 全てを諦めることしか僕らには残されていないのか?ムックが、彼がそうしたように。
 吐息して頭を振った。
 僕が知りたかった事件は、知りたくもなかった「緑の狂気」の存在によってその色を既に失っていた・・・・・・。

2002.11.16脱稿
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