「ひらけ!ポンキッキ」に基づいて考える
      ガチャピン・ムックの取扱いの差異とその理不尽度


 何故、ガチャピンはあんなに世界各国に旅行に行くのに、ムックはいつも東京のスタジオで細々と活動しているのだろう。
 全国民の半分はそう真剣に考えたことが一度くらいあるはずだ。
 いや、まあ別に真剣じゃなくてもいいが。
 ガチャピンはあんな手足の短い不便そーな体で、海に潜り空を飛び、気球に乗ったあと諸外国の小生意気なガキどもとたわむれる。あの妙なガラの体と眠そうな目で、どうやってそんな高度な技術を弄することができるのか。指なんてあってなきが如きじゃないか。
まだムックの方が人間の指だし、ガチャピンが無理して危険なことを全て引き受けるよりは、ムックに押し付けた方が安全に見える。
 それはガチャピンに対する拷問か?
 ムックを過保護に育ててるってことか?
 いくらなんでも全てをガチャピンにさせるってのはないだろう。
 この考察はそんな意見からは、始まらない。



 ていうか、上記の命題について明確な解答は既に出ているのだ(自分の中で)。
 まあ、その結論については置いておくとして、とりあえず彼らの詳細なデータから分析していこうじゃないか。
 ガチャピンは南の国で生まれた恐竜の子孫である。
 南の国というのがどこなのかはっきりしないが、あの背中のびらびらからして、彼が少なくとも爬虫類の親戚であることは間違いないだろう。だとしたら、かなり特殊な爬虫類であるが(超国家的機関がガチャピンの体を狙ってそうだ)
 そんな彼はチンパンジーが好き
 性格はおっちょこちょいで、友達思いの良い子である。
 体のカラーはビビットな緑でグー。眠たげな目、そして二本出ている歯が少し愛嬌ということで。丸い体は可愛く、だが手の辺りについている球体は一体なんなのだろう?と気になるがそんなことは気にしちゃダメだ!(数年前に作られた「2100年ガチャピンキッド」という歌の中で「エネルギーボールスタンバイ、ガルルンパワーオン、いっくぞーっ」ってなかけ声が入っていたのだが、そのとき動画の中でその球体がなんか輝いていた。おそらくあれはガチャピンのエネルギーボールなのだろう。あ、奴の弱点はおそらくそこだ。殺られそうになったらあそこを狙え)
 さて、そんなガチャピンの数十年来(私が生まれる前から番組はあったんでしょ?)の親友が、赤い毛をまとわりつかせたムックである。
 ムックは北極出身で、好きな動物は白熊である。
 もたもたのんびり屋らしいので、おっちょこちょいのガチャピンとは仲良くやっていけるらしい(と、「このみちどんどん」という歌の中で語られていた)
 こちらは北国出身ということで、暑そうな体の構造をしてはいる。
 ただ、北と南両極端の場所で生まれた彼らが、どうやって知り合ったのかは謎のまま。
 ムックは目がでている、というか目がなんか顔に刺さってる。おまけにプロペラが頭にささっている。あのプロペラって一体なんなのだろう。
 使ったところは今まで一度も見たことないし、ただの飾りか?
となると、ムックは今まで食いしん坊ののんびり屋、というなんだか呑気なそこらの親父っぽいイメージがあったのに、顔にいろんなもの刺して歩いてるって、あんた、バラモンのように苦行でもやって生きているのか?のんびり屋じゃないじゃないか!
 まあ、いい。
 今はそういう論争をしているときじゃないのだ。
 とにかく、この仲の良い二人(二匹?)は、朝の忙しいときにブラウン管に現れて、爽やかに幼児たちの相手をしてくれているわけだ。
 もちろん、機関車トーマスよりもポストマンパットよりもわくわくゴロリよりもざわざわ森のガンコちゃんよりも人気は高いだろう(憶測)。
 あたしはブラッカブロッコ島の方が好きだけどね(誰も知らんか)。
 じゃあ真面目な話、ガチャピン・ムック、どちらが人気が高いのだろうか。
 「〜ですぞ」という語尾の野郎か、それとも「んふふふふ」と妙な笑いをぶちまける野郎か。
 おそらく、高校生以上の人たちに聞いたら、その半数が「ムック」と答えるだろう。いやほんとに、ムックが好きだという人は多いのだ。
 じゃあガチャピンはどうか?
 ま、嫌い、という人はいないだろう。
 なんか、でかいぬいぐるみが海に入ったり空飛んだり、中の人は大変だなあ凄いなあ、という程度の認識ぐらいじゃないだろうか。いや、ディープなファンなら、もっと他に何かあるだろうが、普通の人ならそんな感じ。
 それじゃあ年齢層を小学校低学年以下対象として考えてみる。
 これは実体験に基づく推測でしかないのだが、小さい子って、ムックよりはガチャピンが好きなんじゃないだろうか。いや、ムックが嫌いというわけではない。ガチャピンが好きなのだと思う。
 今から語るのは、著者の体験談である。
 私はムックがはっきり言って好きじゃなかった。嫌い、と断言してもいい。
 何故かはわからない。確実にガチャピンが好きだった。
 幼稚園の頃、朝の8時はニュースではなくまだアニメの再放送があって、「かぼちゃワイン」とか「おはようスパンク」とか見ていた。それらは「ひらけ!ポンキッキ」の裏番組にあたるわけだが、その頃、ま、ポンキッキ世代の頃は「あんな番組は幼稚だ」と思って見ていなかった。
 そんな冷めた人間がポンキッキに頭の先まではまるのは、木の内もえみお姉さんの時代で、番組枠が30分から45分に拡張された頃だ。あの時代は「ポンキッキ黄金時代」として私の中でいつまでも輝きつづけることだろう。
 それは小学5年生あたりのことで、その頃でもどちらかといえばガチャピンの方に好感が持てた。
 何故だろう。
 今はムックの方が好きなのである。ガチャピンは嫌いだ。
 その理由ならはっきりしている。ガチャピンばかり海外にいったりなんだりして、少々でしゃばりすぎじゃないかと思うのだ。ムカつくというか気に障る。ガチャピン本人のせいではないのだが、活躍しすぎるモノを見ると腹が立つ。ムックの立場はなんなんだ、と憤ることが多いだけだ。
 今の感情ならこう説明できるが、幼稚園児となると、はて、どうだろう。
 ポンキッキ黄金時代、やはりガチャピンはいろんなところに行った。
 ガチャピンのナレーション。ムックの朴訥な質問。それに答えるガチャピン。
 きっとそれ以前も同じような形式で番組は進んだだろうし、それがポンキッキの中では当たり前のことだった。
 私は意味もなくムックが嫌いだったんだろうか。
 一つの推測ならできる。
 ムックって、得体が知れないのだ。
 ガチャピンだってそうだが、ムックはそれ以上に。
 何故目は出てるのか。あのプロペラは何か。しゃべる時、何故彼は手を口にやるのだろうか。いつも食べることしか考えてないし、すぐに暑いだのなんだの愚痴をこぼす。
 姿形はほぼ妖怪のそれといって過言ではない。しかも、ガチャピンの手は、爬虫類って感じで「自分は人とは違う異形のものだ」と主張しているが、ムックはあからさまに人間の手だろう。
 なんか、どこか不自然なのだ。
 端的に言えば気持ち悪い。
 画面で彼を見ると不快だ。意味のわからない気持ち悪さ。
 この瞬間、おそらく私の中でムックに対する思いは決まる。
 こいつ、嫌いだ。
 ────こうして幼児期ムック嫌い症候群は成立する。



 さて、話を冒頭に戻そう。
 何故ガチャピンばかりがいろんなことをこなさねばならないのか。
 幼稚園児が、ガチャピンの方をより好むからではないだろうか。
 それに、ムックが海に入る。ガチャピンが海に入る。比べてみれば、ガチャピンの方が簡単そうである。あんな毛ばかりの妖怪を水にいれた日には、毛が海水吸い込んでにっちもさっちもいかなくなるだろう。
 ガチャピンは南の海に潜って魚たちと一緒に泳いだ。気球に乗って空を飛んだ。ハンググライダーにも乗ったし、単身アフリカにも乗り込んだ。
 おそらくこれは彼の望んだことじゃない。きっと、子供たちが「ムックよりもガチャピンが好き」という、とんでもない理由によって実現した差別的取扱いのなれの果てだったんだろう。
 私はそう結論付けるが、さて、真実はどうだったのだろうか。
 それではムック応援派やガチャピン抹殺委員会などに属している方々のための、ちょっとしたエピソードをいくつか。
 ムックはスタジオぱかりにいるわけじゃないのだ。本当は。
 東京都ひのはら村に「みんな」で遊びに行ったこともある。沖縄にだって行ったことあるし、冬休み特別バージョンで機関車トーマスの生まれ故郷イギリスへの旅にも、ガチャピンとともにムックも行っていた。
 彼だって海外旅行はこなしているのだ。
 が。
 待てよ?
 ガチャピンがいつも傍らにいる!
 こんなんじゃダメだな。
 そうだ。そう言えば、昔、みんなで人形劇をしようということになった。
 みんな人形を動かす。が。
 何故かガチャピンだけがいない。ガチャピンはどこだ?あんなに出ずっぱりだった彼がいないなんておかしいじゃないか。
 画面をよく見てみる。
 ガチャピンはいた。
 背中のびらびらで「草むら」の役を演じるために。
 「えーん、こんなのやだよー」、なんてつぶやく彼が、そこにいた。 
 本当の話である。
 そうかガチャピンも少しは迫害を受けていたのか。いいことじゃないか。
 でもまあ結局、ガチャピンはいろんなことに挑戦でき、ムックは声だけ「すごいですぞ」とかなんとか言うだけという形で進んでいくんだろう。
 可哀想なムック。
 彼に幸あれ!
 そう思ってやまない。

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