えくぼ王子へのちょっとした怒り。



 ポンキッキは不思議な世界だ。
 妙な歌や、妙な映像、海外へほいほい行き、簡単にガチャピンに空を飛ばせる。私の気が確かならば、教育的な幼児番組とはではなかったと思う。
 教育的なっていうのは、それがあからさまにわかる番組ということ。
 勉強云々じゃなくて、なんというか、躾とか?ぱじゃまでおじゃまとか?そういうのって少なかったと思いませんか?無いとは言わない。少なかったと思う。
 そりゃ多少のことはあったさ。おつかいに行こう、みたいなのとか、そーいうの。
 そんで、最も感動すべきなのはこの人。
 その名も「こんなときなんていうの」おじさん
 ある場所で、少年が道行く大人に助けてもらった。しかし、お礼の言葉が浮かばず、なんて言おうか悩んでもじもじしている。大人は少年の言葉を優しい笑顔で待っている。
 ────そのとき!唐突にこのおじさんが後ろから現れ少年に囁きかけるのだ。
 「こんなとき、なんていうの」と。
 少年はいきなり明るい顔になり、「ありがとう」と叫んで一件落着。
 ・・・教育ですね。
 でもなんかさー、このミニコーナー、そこまで教育の匂いはしなかったんだよな。どっちかと言えば微笑ましいドラマ的なものに見えた(そう思っている時点で、製作者の罠にはまっているのかもしれんが)。
 なによりも、おじさんの囁き声が滅茶苦茶いい感じで、私はもう少しで惚れそうでした。私だってこのおっさんに後ろから囁かれたら、なんだってできる気がする。私的な重要な場面では、いつもおじさんが頭の中で囁いてくれてます。
 「こんなとき、なんていうの」、と。
 そして何事も失敗しているわけですが。
 まあそんなことはどうでもよくて、このコーナーは、私の中で5本の指に入る優秀なミニコーナーでした。
 これくらいならいいんだよ。微笑ましいで終わってれば。
 が、その世界を根底から覆した奴がいる。
 ────そう。
 もちろん、いつも上半身裸の露出狂、異様に元気な「えくぼ王子」だ。


 えくぼ王子って最初はミニコーナーで細々してたんだよ。そんな覚えがある。
 この子はまあ、幼稚園児の等身大キャラとして作られたらしく、まだまだ躾もなっていない発展途上にある人間だ。だって裸におしめで生活してんだよ?そりゃあんた、いくら可愛くてもそれじゃ駄目だよ。
 まあ別に、私は可愛いとは思いませんがね、こんなヤツ。
 最初はどうだったかなあ・・・声だけ聞こえる母さんに何か言われて「はーい」とかいって従ってたのかなあ。あまり記憶にはないのです。それくらい影が薄かった。
 が。
 人気が高かったのか、必要性に迫られたのか、えくぼ王子は時間枠を拡大された。
 以前紹介した、「お天気ランド」。あれは数分のミニアニメでしたが、あーいうノリでえくぼ王子もアニメ化されたのだ。
 なんかオープニングとかついちゃって。
 「(前略。覚えてません)にこぱの城の王子様」とかなんとかリズムにのせて歌われるわけだが、とりあえず「にこぱの城」ってなんだ。にこぱ国なのか、ここは。
 登場するのは、王子とでかい犬と猿と猫とどっかの姫。たまにどっかのジャイアン的でかい王子が現れることもある。母親はやはり声だけで、とりあえずこの子供と犬畜生コンビで話は始まる。
 犬猫は多分人間語は駄目だったんじゃないかな。猿は喋ってたと思う。
 で、こいつらが日々日常的に何をしているかといえば、単に遊んでいるだけなんだな。まあ幼稚園児みたいなもんだしいいけども。その中でもえくぼ王子は一番頼りない。おそらく一番しっかりしているのが姫で、次が犬だと思う。ドラえもんで言うところのしずかちゃんとドラちゃんだろうか。
 そしてテーマが何か考える。
 私は常々思うのだが、「お天気ランド」が仲間友情思いやりの道徳アニメだったんだとしたら、「えくぼ王子」は単なる躾アニメじゃないんだろうか。
 そりゃ確かに友達は大事そうだった。
 けれども結局、
 「おやつ食べる前には手を洗いましょう」
 「モノを壊したら素直に謝りましょう」

 ────等、なんかあからさまな話題が多かったと思うのだ。
 最初はそれでもなんとなく見ていた。別に嫌いではなかったのだ。
 けれど、だんだん嫌になってくる。なんか見たくないのだ。ムカつくというか面白くないというか楽しんで見られるものではなくなっていった。
 その時は何故かはわからなかった。単に面白くないのだろう、という程度。
 しかし今考えてみれば、あからさまな躾描写が好きではなかったのかもしれない。一番優秀そうで偉そうな姫の態度も好かなかったし。姫に命令されるくらいなら、でかい犬につっこみいれられた方がはるかにマシだ。
 このアニメはそれでも視聴者の支持を得たらしい。
 そりゃそうだろう。
 「しましまとらのしまじろう」等に見られるような「お手軽勉強アニメ」だ。普通の漫画のように眉をひそめるような描写はなく、和やかで教育的な話を無難に繰り返してくれるのだから親には人気だったろう。
 それに、幼児というのは、自分達にわかる範囲の等身大アニメであればすんなり受け入れてしまうものだ。私だって昔は「なんでこんなものを真剣に?」という番組をそりゃ真剣に見ていたものだ。だからこそ、躾アニメというものは根強く永遠に残っていくものであるのだが。
 だからというわけではないが、えくぼ王子の歌ができました。
 2曲も。
 一つ目は「えくぼのはてな」だっただろうか。
 えくぼがはてなと考えるんですよ。象の鼻はどうして長い?と。
 いろいろ案がでます。寝るとき枕にするのかな、結んでリボンにするのかな、と。
 しかしえくぼはいいます。
 いやいやきっと、いや絶対、プロペラにして空飛ぶんだね!
 またまたえくぼがはてなと考えます。とんぼの目玉はどうして大きい?
 大きな眼鏡をかけたいのかな、目薬たくさんさしたいのかな。
 いやいやきっと、いや絶対、にらめっこ強くなりたいんだね!
 ………想像力豊かだ。この辺はすごいよ。しかしラストの「やったねえくぼ/あっぱれにこぱ」のフレーズはよくわかりませんが。こーいうのがずっと続く曲と、もう一つは以前怒りとともに紹介した、
 「タツジンになるんだもん」です。
 そりゃ達人になるのはいいさ。ならないよりはマシだろう。
 しかしなあ、横断歩道を渡る達人ってなんだ。そんなもん、成長してけば勝手になれるだろう。経験であって達人になろうと思ってなるわけじゃなかろうし。
 ごはんモリモリ食べる達人っつうのも解せん。
 更に解せんのはママをびっくりさせる達人だろうか。
 要するに自分のことは自分でできるようになったら、親も満足するというか驚くだろうから、きちんとやろうねということが言いたいらしい。
 あからさまに、親の都合だと思えません?
 この曲4番まであるんですが、フルコーラスをテレビで流したのってみたことがない。一応製作者側の良心からだろうか。違うか。「えくぼのはてな」にしてもフルコーラス流れることってまずなかった。
 曲が長すぎるんだよね、ぶっちゃけていえば。
 前者の曲は良かったのに、後者はなんだかもー、腹が立って仕方ない。……いや、想像力を発達させるという観点で見たらの話で、曲調やえくぼ王子のことを考えるとどっちもかなり好きではないんですが。むしろ嫌い。
 まあ主観的要素もまじってはいますが、えくぼ王子に関連する全てが一つの方向────すなわち、立派な躾へつながっている気がしてすごく嫌いというか怒りを覚えるほど嫌なんですわ。
 一つの方向へ向かってていいから、あからさまであることをどうにかしてほしい。
 「お前らを教育しちゃるんじゃあ〜」という態度を改めてほしい。
 やるならやるで、もっとソフトなものを作ってほしい。
 それが私の思いですね。


 で、なんでポンキッキに対してのみこーいうことを思うのか考えた。
 教育テレビ、とらじろう、と別に見てても腹は立たない。むしろ微笑ましいじゃないか。なのに、ポンキッキ内でそういったことが展開すると苛々する。
 それは結局、私がポンキッキをそういう目で見ていないからなのだろうか。
 あれはただのバラエティ番組なのだという気分が私の中に実はあって、だからこそえくぼ王子が躾られていく様を見るのが腹立たしいのかもしれない。
 「こんなときなんていうの」おじさんは好きなのになあ。
 っていうことはえくぼ王子自身に問題があるのか?
 とにかく、彼さえいなければ、ポンキッキは私の中で完璧だったのに、と思う。
 実際「幼児教育番組」だったんだろうから、仕方ない話なのかもしれないが。

おわり。

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